日本にはフランスに関する本があふれています。
ただほんとうのフランスを説明している本は少ないです。
そんななかでそれでも住みたいフランス (新潮文庫)はおススメです!
フランスについて日本でよく言われるイメージやステマとは異なる視点で語った1冊。
著者はほんとうにその独自の視点でフランスを見ています。
かといって主観的な観点に陥ることなくフランスを分析していて好感がもてます。
フランスに関する新たな(といっても2007年出版ですが)バイブルといってもいいのではないでしょうか。
やはり40年ちかくフランスに住まれている方は違いますね。
個々人でフランス滞在の感想や思い出は違います。しかしその背景にある文化や社会はおなじものです。
「あのときどうしてフランス人の友人はこうしたのだろう?」
「あのときどうしてこんなことが起きたのだろう?」
というフランス滞在時に思った疑問も解決できるかもしれません。
フランスに行かれる方行った方、フランス語を始めようと思っている方にオススメです。
日本でいうと、神道や仏教、お正月やお盆やクリスマスのような行事から、ゆとり教育や就職活動や過労死や年金制度崩壊のようなトピックにあてはまるのでしょうか。
ブラックな話題にも切り込んだ素晴らしい書籍です。
134ページ~135ページ
フランスは(中略)ながーくつづくものが尊重されてきた。(中略)フランス人は世界で一番抗鬱剤や精神安定剤などの消費量が多いのだが、
それはもともとのんびりが好きなのに、現代生活に追い立てられてストレスがたまることも影響しているのだろうか、などと思ってしまう。
~というのも、フランスでいいなと感じる(そしていまの日本にすごく欠けている)ものに、ユーモアやジョークのセンス、批判精神と並んで、のろまの愉しみがあると思うからだ。(中略)この国にはたしかに、時の流れを愉しむ人たちがまだ生きながらえている。
フランス人はゆっくり生きることの大切さを知っています。
パリのような大都市は日本の大都市と変わりません。
みなさん急いでいますし、時の流れは早いです。
ただ地方都市や田舎に行くと本当にゆっくり時間が流れています。
日本と比べると大きな違いがあってオモシロいです。
158ページ
もっとも、四泊以上の休暇をとる十八歳以上のフランス人の割合は2003年で63%にすぎず、ここ四世紀半でその割合はあまり変わっていない。つまり、四割近くの人(五~十八歳では三割)がフランスでは常識とされる「長いヴァカンス」をとっていないのだ。
ヴァカンスはよく日本とフランスの違いで例に挙がりますね。
ただじっさいのところヴァカンスを取れていないフランス人も多いそうです。
それでも労働者の権利は守られているのがフランス。
夢の世界ではないですが、労働者の違法長期労働がまかり通っている日本人からすると羨ましいです。
ただこのヴァカンス・・・・いいところだけではありません。
ヴァカンスのせいで死者が出ています。
次の引用部分を見てください。
160ページ2行目
2003年の記録的猛のとき、フランスでは例年よりなんと15000人も多い死者が出たが、これにはヴァカンス時という要素も大きく関係している。健康省や関係政府機関の責任者はみな休んでいて、休暇先の彼らと代役の高級官僚の反応がおそろしく鈍く、しかるべき対策が遅れたのだ。開業中の町医者は数えるほどしかいず、病院では人手は足りず、ベッド数も減らされていた。そして、住人がまばらになった集合住宅に残されたひとり住まいのお年寄りや、人手の減っていた老人ホームなどに犠牲者が多かった。
カナダでのヴァカンスから戻らなかったシラク大統領以下、対応が遅れた政府の長であるラファラン主相は後に、
「高齢者を気遣わない家族や周囲が悪い、フランス人全員の責任だ」
と自分たちの無能を棚にあげた発言をしたのだから呆れる。
そうなんです。お医者さんなど直接健康に関わる人たちが休んでしまうことで灼熱の夏多くの人が亡くなっています。
ひとだけじゃありません。
犬やネコもです。
フランスではヴァカンス前に飼えなくなったペットを捨てることが社会問題化しています。
ペットがいてはヴァカンスに行けないからです。
代わりに見てくれる人が見つかれば良いのですがそうもいきません。
だから捨てるんです。
日本で礼賛されるフランスのヴァカンス。
完璧な制度というわけではないようです。
著者の最後の文章もよく意図が伝わってきます。
228ページ最後の行
日本に紹介されるフランスの像がいくつかの決まったメロディーだとすると、別のメロディーを奏でて、和声や序奏も聞こえるような演奏をしようというのが、この本の主旨だ。
フランスを本当に知りたければ目を通すべき1冊です。
もっと生きやすく